伊本貴士 書評

書評「AIの教科書 伊本貴士」【具体的な仕組みから活用方法まで】

次の点についてお伝えします。

・この本の気になった点を3つご紹介

私自身、ビジネス書、技術系書籍などを年間少なくとも100冊くらいは毎年読んでおります。
そのため、本棚には2000冊以上あります。

伊本さんはIoTの著作を何冊か出されています。
今回のこの本は、AIについて学生でも読んでわかることを目標にして書かれたと言われている通り、とてもわかりやすく、AIの仕組みについて書かれています。450ページ以上ある大作です。
AIを知りたい場合、どういったソフトやライブラリーを使ったらいいかなども書かれています。

偏微分のあたりなどは文系の人からすると難しいかもしれませんが、そういったところは読まなかったとしても、「AIは何をどうする」ということがわかることがまずは大事なのでべつにいいのではないかと思います。

この記事は1、2分で読めますので、もしよろしければ目を通していただければと思います。
目次を最後に載せております。

書評「AIの教科書 伊本貴士」【具体的な仕組みから活用方法まで】

AIの教科書

著者 伊本貴士
出版 日経BP
発行日 2019年11月11日 第3刷発行

人工知能の得意なこと

人工知能は万能ではありません。それを理解すると幻滅する人がいるかもしれません。しかし、人工知能が特定の目的に限って、これまでになかった新しい価値を生み出すことは間違いありません。

例えば、自動運転は人工知能によって実現可能になった象徴的なものといってよいでしょう。自動運転を行うには、搭載された複数のカメラの映像から、進行方向に対して何がどこに存在するのかを正確に認知しなければなりません。人工知能は、画像という膨大な情報を含むデータから、特定のものを認識するパターン認識と呼ばれる計算が非常に得意です。

出典 AIの教科書 P.31

アニメや映画の世界の中ではAIがまるで人と同じように考えたり、判断したりして人と接しているようなものをみます。
100年後などはわかりませんが、当面はとてもではないですがまだまだでしょう。
確かに、人は、モノに思いがあると思いがちです。
例えば、車を売ろうと思っていたら、どうも故障が増えてきた、やはりわかるのかな、みたいなものですね。

もしかしたらそういうのもあるのかもしれませんが、基本的には車を乗り換えようと思っているくらいだから、そういう点をつなげてしまっているだけかもしれません。

SONYのAIBOという犬型ロボットがありましたが、あれをかわいいと思ったりするのも、まるで考えているのではないかと人は想像するからです。
実際は、あくまで用意されたパターンと、乱数(ランダム)による不規則な動きや反応をしているだけです。

最近、AIが持てはやされているのは、一つにコンピューターの処理速度が劇的に上がってきたこと、それと通信速度が上がったこと、それとビッグデータと呼ばれるような形で数多くのデータを集めてそれを処理するために用いられるようになったという背景があります。

AI自体は、数十年前から、いってみればコンピュータの開発が始まったときから構想はありました。
第二次世界大戦のドイツのエニグマという暗号機の解読の中心となった、アラン・チューリングはコンピュータのない1940年台から機械の知性化についての研究も行っていました。

話はそれましたが、現時点ではAIだろうと、所詮は計算機だということです。
人が行うよりも圧倒的な速度でパターンを見つけてある判断をすることは人以上に正確に答えを出すことができるということです。

ただし、学習ができる

現在における人工知能と、人工知能ではないソフトウエアとの違いがどこにあるかといえば学習という機能があるかないかです。人工知能ではないソフトウエアは、特定の計算式がソフトウエアに組み込まれているので、同じ入力データに対しては、何回実行しても同じ計算結果を出力します。

これに対し、人工知能は学習という機能が備わっています。人口知能とは、説明変数と目的変数の関係性を導き出すという説明をしました。学習というのは、説明変数と目的変数に関する過去の事実データから、新しい関係性を再計算するということです。つまり、より多くのデータを学習すればするほど、いろいろなパターンを踏まえた上での関係性を作ることができ、結果、未知のデータに対しても非常に精度の高い予測ができる、価値の高い人工知能が出来上がることになります。

出典 AIの教科書 P.196

ただの計算機とはいいましたが、大きく異なる点、それがこの学習できるかどうかということが書かれています。
本文そのまま抜き出したので省略してしまいましたが、「説明変数」と「目的変数」について補足します。

アニメ「サイコパス」では「犯罪係数が上昇しています」などありましたが、あの数値はあくまで、その人が犯罪を起こしそうかどうか、という数値ですね。
数値が大きいほど犯罪を起こす、その数値を超えたらその人は犯罪を犯していなくても犯罪者とみなすという世界の話でした。

見方によっては、その犯罪係数の出し方はまさにAIが行うものでしょう。その人の脈拍や動悸など様々なパラメータから、犯罪係数という数値を出す。

そうすると、「説明変数」にあたるものが、「脈拍」や「動悸」などになります。
「目的変数」が「犯罪係数」ということになります。

もちろん、「説明変数」が「脈拍」と「動悸」しかないのであれば、走った人は全員犯罪者とみなされてしまい困りますので、それ以外にも多くの説明変数が必要だということになります。

この本の中にも例が載っているのですが、ある街の犯罪が起こりやすいかどうかについて調べる時、天気や渋滞情報、エリアなどいくつかの説明変数を用意して予測することが行われているそうです。
当然ですが、犯罪が起こりやすそうなところに警察を配置した方が効率がいいわけです。
こういったことは、タクシーの配車や、渋滞回避などにも使えそうです。

目標値と開発コスト

加えて、開発ではコストを考慮する必要がありあす。人工知能の正解率を99.00%にする場合と、99.99%にする場合とでは、コストにどれくらいの差があるかを意識しなければならないということです。
一般に、人工知能に学習させるには以下のコストが必要になります。

  • プログラムを開発し、チューニングを行うエンジニアの人件費。
  • 学習するためのコンピューターの電気代。
  • 学習するためのコンピューターをレンタルする場合の利用料金。

実は、このコストを計算すると結構大きな金額になります。一般に、機械学習では正解率を50%程度から70%程度に上げるのは比較的簡単です。しかし、既に99%と高い正解率をさらに99.99%まで引き上げるのは、それとは比較にならないほど難しくなります。時間と手間をかけてさまざまなチューニングを行う必要があるからです。
従って、人工知能の利用を計画する段階で、「正解率は高い方がよい。できれば誤認識が発生しないように」といった曖昧な条件(要件)を含めると大変なことになります。エンジニアはとりあえず決めた高い目標(高い正解率)のために膨大な時間をかけて人工知能を学習させなければならないからです。

従って、人工知能の開発をIT企業に依頼する場合は目標値を曖昧にしてはいけません。

出典 AIの教科書 P.301

非常に難しい話ですね。
ただ、全ての案件において、このようなトレードオフは発生します。
「納期は、なるはやで(なるべくはやく)」と言われても困るのと同じですね。

人との約束であれば「なるはや」でもなんとかなりますが、AIにはそれが通用しません。
この正解率をあげるということについては、全てにおいていえますね。

学生時代のテストを考えても、50点から70点にするのはそれほど難しくはありません。
ところが、80点以上とっているのを、90点以上にするためには急に勉強量が増えます。
100点を取るなんていったら、桁違いの勉強量が必要になります。

日本の製品が壊れにくいというのは、故障率を極限まで下げたからです。
しかし、その分高いですね。

モノによって壊れてもいいものと、壊れてはいけないものとがあります。
音楽を聴くためのヘッドフォンであれば、多少は壊れても問題ないでしょう。
でも、航空機用ヘッドフォンであれば、壊れることは許されないでしょう。

AIにおいても、どの部分は多少は正解率が低くてもいいけど、この部分の正解率は高くなくてはならない、という形で分類されていく形ですね。

ざっと、ご紹介いたしました。

このような形でAIについて、詳しく、例を載せながらわかりやすく説明されています。
AIの概要を少し深くつかむことができますので、もしよろしければ手にとっていただければと思います。

目的

はじめに

第1章 【基礎編】 人工知能(AI)の世界
1.1 人工知能とは何なのか
1.2 人工知能の価値
1.3 人工知能は職を奪うのか
1.4 人工知能は世界をどう変えるのか

第2章 【ビジネス編】 産業別に見た人工知能事例と未来予想図
2.1 製造業の人工知能活用と予想図(製品開発編)
2.2 製造業の人工知能活用と予想図(生産管理編)
2.3 自動車産業の人工知能活用
2.4 農業・漁業・畜産業の人工知能活用
2.5 医療の人工知能活用と未来予想図
2.6 建設業の人工知能活用と未来予想図
2.7 金融業の人工知能活用と未来予想図
2.8 小売業の人工知能活用と未来予想図

第3章 【ビジネス編】 人工知能活用に関する国の施策
3.1 エネルギーとスマートグリッド
3.2 スマートシティ
3.3 データ流通の現状と課題

第4章 【ビジネス編】 人工知能プロジェクトの進め方と注意点
4.1 人工知能プロジェクトの企画
4.2 データ収集と管理
4.3 人材不足という問題の解決方法

第5章 【技術編】 機械学習〜これまでの人工知能と歴史〜
5.1 人工知能を学ぶ前の必須知識
5.2 人工知能の歴史
5.3 機械学習ができること
5.4 データセットによる分析例
5.5 学習
5.6 機械学習のアルゴリズム

第6章 【技術編】 ディープラーニング〜現在の人工知能〜
6.1 ニューラルネットワーク
6.2 誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)
6.3 深層学習(ディープラーニング)
6.4 畳み込みニューラルネットワーク

第7章 【技術編】 人工知能開発と運用管理
7.1 人工知能の設計
7.2 人工知能の運用監視
7.3 Python 言語
7.4 データ分析に必須のPythonのパッケージ
7.5 人工知能関連ライブラリー
7.6 人工知能を動作させるプラットフォーム
7.7 ハードウエアとプラットフォーム

第8章 【技術編】 人工知能の最新技術〜これからの人工知能〜
8.1 リカレントニューラルネットワーク
8.2 強化学習の歴史とDQN
8.3 AlphaGoとAlphaGo Zero
8.4 A3C
8.5 GANs
8.6 BERT
8.7 ソーシャルデータの活用
8.8 カプセルネットワーク

第9章 人工知能開発に関するいろいろなFAQ
9.1 人工知能に関する一般的な質問
9.2 人工知能の懸念点に関する質問
9.3 企業の人工知能活用に関する質問
9.4 暮しに関する質問
9.5 人工知能の人材育成と教育に関する質問
9.6 人工知能の未来に関する質問

おわりに

索引

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