ジョンWダワー 書評

書評「忘却のしかた 記憶のしかた 日本・アメリカ・戦争」【海外の視点で大戦と日本を見ることができる】

次の点についてお伝えします。

・この本を読んで気になった点や気づいた点を3つご紹介

私自身、ビジネス書、歴史書、哲学書、技術系書籍などを年間少なくとも100冊くらいは購入して読んでおります。

第二次世界大戦に関する、日本人の書いた本は数多くあり、現在も出版され続けています。

しかし、海外の学者から見た時、どのように見えているのか。

それを、国内や海外のポスターなども交えて視点を変えて知ることができます。

日本人が書いた書籍ではありませんので、決して「愉快な」本ではありません。
多くの日本人が書いた、世界大戦については、どうしても「身内びいき」があります。
しかし、この本には当然、まったくありません。

だからこそ、あらたな視点を得られるのではないかと思います。

この記事は、2,3分で読めますので読んでいただき、何か一つでも参考になることがあれば幸いです。

【忘却のしかた、記憶のしかた 日本・アメリカ・戦争 ジョン・W・ダワー 著 外岡秀俊 訳 岩波書店】

第二次世界大戦には、欧米側の人種憎悪が根底にある

「鬼畜米英(きちくべいえい)」

という言葉を聞いたことがある人もいるかと思います。
これは、日本人が大戦中に、アメリカ人とイギリス人に対し、「鬼畜生」だと表現したものです。
当時の日本のポスターでは、ルーズヴェルトやチャーチルを人食い「鬼」として描いていました。

そして、欧米のポスターでは、日本人の多くは、サルで描かれていたりもします。
本文にもありますが、日本人は、釣り目にして眼鏡をかけさせて、出っ歯にした、適当な「日本人」で表現をします。
つまり、「人」ではないのです。ルーズヴェルトやチャーチルは、人を描いた鬼です。

日本人から見た欧米人→鬼
欧米人から見た日本人→サル

このように描かれていることは多くの人がご存じのことかと思いますが、ここで、すでに大きな力関係が現れています。

鬼は、大きくて、力強いもの。
サルは、小さくて、弱いもの。

日本人からすれば、「立ち向かう」ものであり、欧米人からすれば、「駆除する」ものでした。
戦争が起きたからそう描いたのではなく、彼らに根底にその考えがあったのだろうと書かれています。

アメリカでも、ナチスドイツは忌み嫌う国だったとしても、ヒトラーにしても、「人間」という認識でしたが、日本人は、「人間以下で、ゴキブリやネズミのようにおぞましいもの」ということも書かれています。

当時、アメリカでは、「ジャップ狩猟免許証」なども配られたとありました。

「日本人」という害虫を駆除するための戦争だったという認識があったようです。

「いいジャップは、死んだジャップだけだ」という考えは、戦争の全過程をとおしてアメリカの常套句だった

(本文P.44より引用)

その視点でみると、原爆投下なども日本には行うことができた理由がわかります。(この本の中には原爆投下に関する判断についても多く記されています)

帝国陸海軍が犯した残虐行為は故国には決して伝えられない。それは日本が純潔、英雄的行為を行う夢の国だから

海外では全く受け入れられていないけども、第二次世界大戦は、今でも日本人にとっては、「聖戦」(自国防衛のためなど)だったという意識を持っている人も多い可能性があります。戦時中も都合の悪いことは、国内には告げられませんでした。

「靖国で会おう」は、お国のために死ぬ心がまえができた男たちが、たがいに暇乞いするさいに言いかわすことになる、病的なほどにロマンティックな流行り言葉となった。

(本文 P.87より引用)

ロシア(ソ連)が住民から略奪や暴行、虐殺するのは、それは国としては「報酬」の一部の側面もありますので、普通に行われます。
ただ、先にあげた「靖国で会おう」のように「ロマン」すらあるような状況で、「略奪」「暴行」「虐殺」をするのか、と言えば、つながらないものです。

しかし、それは、私たち、「日本人」の感覚であり、アメリカ軍が上陸してきたら、暴行虐殺される、ということを日本人は信じていましたが、なぜ、そのように考えたかと言えば、「日本人が他国でやってきたからだ」というような文面もありました。
日本兵による、中国での「100人切り」というような新聞記事が載っていた時代背景を考えると、事実かどうかはさておき、そういうことを受け入れるような雰囲気があったのだと考えられます。

確かに、スパイ国家は、相手の国も同じように「スパイ」をしていると考えるのは当然なのと同じです。

別にアメリカが正しいだとか、そういうことではないのですが、日本人という感性を持たずに、「合理的」に考えるとそういった面が見えてくるのだと思います。

第二次世界大戦は、アメリカの大衆の意識に、「良い戦争」として刻みこまれており、多くの理由から、これはけっして変わることがないだろう(本文 P.154)

原爆に関して、かなり多くのページを割いて解説がされています。

なぜ、広島、長崎だったのか、京都はなぜ外されたのかなど。(理由は、日本を今後占領し、属国にする際に日本人の心である「京都」を戦時中に燃やしてしまうと、日本は未来栄光、属国にならなくなるから。また、原爆の効果を測るためにも、比較的空襲されていない場所が選ばれた)

参考になった点の一つに、国内では、原爆の写真や動画、本など一切、戦後数年間~十数年、出版等ができなかったということです。
有名な「はだしのゲン」に関わることなども載っていますが、はじめはダメだったわけです。

その理由は、日本においては、反米感情を生み出してしまうからでした。
諸外国に対しては、正確な威力や生成方法などをマネされないためです。

ただ、それでけでなく、私たちが知っているような、原爆の被害を、アメリカの一般の人が知るようになったのも、まだ、最近にすぎないようです。
私が小学生の頃、つまり40年くらい前から「はだしのゲン」は図書館にあり、そののちに翻訳もされていたと思いますが、自国の虐殺(とは思っていないが)の詳細などを知りたいと、どの国も思わないのと同じでしょう。

また、原爆投下地域をあらかじめ、日本に告知した方がいい、というのはアメリカの内部でもあったようです。
さすがに、一般市民を無差別に虐殺するのは避けたいと考えていたふしもあったのですが、その動きは、大統領に進言される途中で止められてしまったことなども書かれています。

まとめ

この本の特徴である、当時の「イラスト」「ポスター」についてはあまり触れませんでしたが、それは、実際にご購入いただいて読んでいただくのがいいかと思います。
当時の日本のポスターなどをとりあげて、解説しているアメリカ人による本というのは非常に珍しいと思います。

また、ここでは触れませんでしたが、55年体制など、政治に関することも詳細に載っていますので、もしご興味がある方がいらしたら、それも併せて読んでみていただくといいのではないかと思います。

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