次の点についてお伝えします。
・この本の気になった点を3つご紹介
私自身、ビジネス書などを年間少なくとも100冊くらいは毎年読んでおります。
そのため、本棚には2000冊以上あります。
SDGsは、2015年の国連で採択された、「持続可能な開発目標」となります。世界の貧困をなくす、持続可能な世界を実現するといった17のゴール、169のターゲットが定められています。2030年を達成の期限とすることになっているものです。
この本は、(株)テクノシステムという横浜の中小企業が取り組む内容についての紹介が中心です。
その社長である生田さんに、米谷さんという元環境省の審議官をされていた方の対話形式の本になっています。
後半に米谷さんのSDGsや環境省時代に関わる話が載っていてそこが結構参考になります。
大企業が取り組んでいる例ではなく、中小企業が取り組んできた例だからこそ、見える話というところがあります。
大企業の取り組みとなると、どうしても多岐にわたるため、なかなか現状が見えないところがあります。
このテクノシステムの取り組みの場合、まだ、2009年に創業して10年程度の若い会社です。だからこそ、一つずつ、どのように取り組み、そしてSDGsに関連する事業を拡げてきたのかが見えます。
この企業では、「水・食・電気」をキーワードに進めております。もともとはポンプが中心ではありましたが、それを拡張しながら現在にいたっている企業です。
1,2分で読める記事ですので、目を通していただければと思います。
書評「SDGsが地方を救う 米谷仁 生田尚之」【ある企業の取り組み10年】
著者 米谷仁 生田尚之
出版 プレジデント社
沖縄など、島では水の確保が実は大変
2番目に大きなプラントは沖縄にあって、国費350億円くらいを投入して立ち上げた。沖縄は海に囲まれていますが、深刻な水不足に悩まされていた。まさに「目の前にある海の水が飲めたら……」という強い要望があったんです。しかし、電気代が高いからせっかくの装置を動かさない。水1杯のコストが高くなりすぎるんですね。
出典 SDGsが地方を救う P.28
沖縄の例がテクノシステムと関係するのかはわかりませんが、「海水用淡水化装置」を開発、販売されています。
その他にも、「河川用淡水化装置」なども販売されていますので、海でも川でも水さえあれば、それを飲めるようにする装置の製作と販売が行われています。
災害時の例なども載っています。災害時はまず水の確保が必須です。アフリカの場所によっては、いまだに水くみという作業が行われている地域もあります。
私たちが何気なく使っている「水」は、関東圏にいれば特に水不足に悩まされることはありません。
ところが、沖縄のように大きな島ですら、水不足ということがあったということは言われてみれば納得しますが、気づきませんでした。
少し確認したところ、沖縄では、東日本大震災でも水道が被害を受け止まってしまったそうです。3日目くらいから徐々に回復し始め、10日目で6割、20日目で8割回復というくらい大きな被害がありました。
昔は家庭ごとに雨水をためておくというようなことをしていたそうです。
沖縄は年間の雨量は多いですが、降る時期が夏に集中していることや、すぐに海に流れてしまうためにためておくことが困難です。
その淡水化装置の開発が、起業のきっかけになったと書かれています。
補助金を受けていない
テクノシステムは、これまで一度も行政の補助金を受けてきませんでした。地方創生といいながらも税金の補助を受けることを当てにして進めていては、本末転倒ではないかとの思いもありました。行政に頼る、よりかかるのではなく、できることは自主自律で進めていきたいとは思っています。
出典 SDGsが地方を救う P.93
イメージ的には、環境ビジネスというと国の税金を使って行うものだと思っていました。確かに、予算目当てでやっていくと予算がいくらつくのか、今後もつくのかによって事業計画が変わってしまいます。つまり、その部分については自社ではコントロールができないからです。
そういった税金を使ったものの場合、本業以外にも報告書を多く作る手間や監査など(正しく使っているかどうか確認のため)も出てきます。また、使い道についてもこれは認められない、そういう第三者との打ち合わせや意見も入るデメリットがあると言えます。
SDGsが日本では今一つの理由
SDGsは日本ではまだ今一つですが、ヨーロッパなどではたいへん盛り上がっています。
わたしは、その理由がはっきりとわからなかった。あるとき、欧州に数年赴任していた環境省の後輩に聞いてみました。
「ヨーロッパで盛り上がっていると言っていますが、実はアメリカ、ニューヨーク発なんですよ」
後輩はそう言いました。アメリカのリーマンショックの反省。SDGsは、そこに端を発していると。
「目先の利益ばかりを求めた結果が、2009年のリーマンショックだった。それを猛省し、30年後、50年後を見据えて、長期的に追及しなければいけないものはなんだろう。そんな問題意識から、SDGsという発想が生まれたんです。」
わたしは、後輩の言葉に膝を打ちました。
日本人がSDGsに対してピンとこないのは、リーマンショックへの反省がきちんとなされていないからではないか――
出典 SDGsが地方を救う P.108
SDGsという言葉は聞いたことがあっても、それは日常の中で殆ど目にすることはありません。また、そういったことに取り組んでいる企業がニュースになるということも多いことではないように感じます。
日本人にとっては、どこか他人事なのかもしれません。自分たちが購入しているものがどこで作られて、どのようにリサイクルされているかより、目先の安くて良いものを買えばいい、というような。
発展途上国ならば、誰よりもたくさんのものを手に入れることで自分の価値を感じることができる、という部分はあるかもしれません。なぜなら、その国ではものを持たない人たちが多いからです。
ここには取り上げませんでしたが、テクノシステムでは、働き方についての言及もありました。「適材適所」が必ずあると。なので、こまかく席替え、面談を行い、その人が一番力を発揮できるように考えているそうです。
実際、テクノシステムで働いていたわけではありませんので、すごい良い会社だとかは言えるものではありませんが、考え方としては大事なことをやっているように思います。もちろん、どんな会社にもまだまだ、改善点はあるでしょう。
SDGs的な取り組みをやっている会社と、やっていない会社が一目でわかるようになっていくことで、SDGs的な取り組みをしているという会社が増えていくと良いなと思います。
上場基準に入れたりするとまた変わってくるでしょう。
もう一つ、気になった個所があります。米谷さんが環境省で働いていたときの話です。
経産省の人の言葉でこういうことがあったそうです。
そんなときの、彼らの言葉が忘れられないのです。
「たしかに環境も大事だと思うが、環境を守って経済が倒れてしまったら、元も子もないだろう」と。
強烈な違和感に、混乱しました。
ちょっと待てよと。
言葉の使い方、まちがっていないか?
「経済が回っても、環境が壊れたら、元も子もない」が真っ当でしょう。
出典 SDGsが地方を救う P.115
まさにここに当時の日本全体としての考え方があるように思います。
もちろん、この話はずいぶん前のことでしょうから、今ではだいぶ変わってきていることもあるでしょう。
世の中には多くのトレードオフがあります。どちらを大事にしなければならないのか。
それは、つまり根幹にかかわる部分です。
その根幹がどこに重点が置かれるかで、対処や方向性は変わります。
この本は、テクノシステムという会社の取り組みのほかにも、米谷さんの環境に対する考え方などが載っておりとても参考になる本でした。
もしよろしければ、手にとって読んでいただければと思います。
目次
序章 「水・食・電気」に真正面から取り組む
第一章 水
- 水事業への執念
- 日本製品には「けど」が付きもの
- 電気工事で稼ぐ
- 途上国では水が足かせになっている
第二章 食
- 世界特許を取得したデリシャスサーバー
- ポンプの技術
- レストラン業にも進出
- 人の集まるところに
第三章 再生可能エネルギー
- 会社の運命を変えた太陽光パネル
- 300万坪の土地を購入
- 出稼ぎに行かなくても済む
- 廃校リノベーション
- バイオマス事業
- 発電効率があがらない
第四章 パートナーシップ
- 縁を生かす
- 行政によりかからない
- 最重要課題は災害対策
- 横浜中華街で循環型ビルを推進
- これからの地方、これからの地球
スペシャルコラム
「今の日本は本当に豊かなのか?」米谷仁
- SDGsにたいする国による温度差
- 仕事人生32年、世になにを生み出したのか?
- 2つの問題意識、公害系と自然環境系
- なぜ50半ばで農業法人へ
- 中国からトキを贈られる
終章 ゼロからなにかをつくりだすこと 生田尚之